18-2 どんな美しい場所よりも

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 その事実に、彼が密かに(ほの)暗い歓びを覚えていたなどと、言えるわけがない。シウリンを裏切って彼に身を任せたことに、アデライードが苦しんでいることを知っていたのだから。  シウリンと、ユエリン。彼がシウリンであるという真実を、いつかは告げるべきだと、彼にもわかっている。彼が真実を隠している限り、アデライードの初恋は実らない。それどころか、彼女は永久に、自身を裏切りを責め続けなければならない。――その、葛藤すら彼には愛おしく思えていたなどと、どうして口にできようか。  マニ僧都も、そしてメイローズもジュルチも、指輪をきっかけに、〈シウリン〉と〈メルーシナ〉のことに気づいた。それなのに、アデライード本人だけが、真実を知らされていない。こんな理不尽なことはないと、マニ僧都が憤るのも当然だ。アデライードの十年の献身を知りながら、どうしてそんな仕打ちができるのかと。  でも――。  〈シウリン〉であることを諦め、〈ユエリン〉として汚れた人生を生きることを決めた。
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