五章 ー愛ー

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 翌日。いつもの根城ではない教室の中、机の上に腰を下ろし目をつぶって、来訪者を待つ。  しばらくしてガラリと開いた扉の音に、羅井は待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。 「こんばんは。海凪君。待たせちゃった?」 「いえ、全然待ってませんよ。それより急にすみませんでした」 「あなたと私の仲じゃない。それに海凪君に頼られて、嬉しいんだから」  ふふと笑うのは華琳。羅井はお礼の言葉の代わりに、同じように微笑み返した。  昨夜、神藤を殺すと決めてすぐ、善は急げとばかりに華琳に接触した。仕事の依頼として話をすると快く引き受けてくれ、そうして今夜に至る。 「なるべく似た子を連れて来たつもりなんだけど……。確認してみて」  そう言って廊下に顔を向け、ちょいちょいと手招きする。するとひとりの男がふらふらと歩いてきた。  男にしては低い身長。筋肉の付きがないひょろっとした体型。根暗そうだと印象付けてしまう長い黒髪から覗く双眸(そうぼう)は、力なく虚ろである。  華琳の指示を忠実に――いや操られる男はふらふらと羅井の前に立ち、その場でぼーっと足を止めた。  それを不思議に思うことなく、じっと男を見定める。頭の先からつま先まで目を動かし、最後不自然に真っ赤に染まる男の唇を見て、ふっと笑った。 「よくここまで似た男見付けましたね」 「何回か会ったことあるもの」  サラリーマン風の男は神藤によく似ている。花内は神藤を知らないので似る必要はないのだが、万が一に備えお願いをしていた。 「効力は3分ですか?」 「まさか。今夜いっぱいあるわ」 「さっすが」 「男性に愛してもらうことは得意なの。ましてや、こーんなうぶな人は簡単に、ね」  華琳は男の横に立ち、艶めかしく頬を撫でる。撫でた手は頬に触れたまま、ゆっくりとキスをした。  アイテム『奪の口紅』を塗り口付けすると、異性の相手の心を奪うことが出来る。奪える時間は僅か3分だけであるが、"ひとつだけ" 例外があった。  相手が使用者に対し好意を抱いている状態でキスをすると、効力は一夜まで延びる。  華琳のテクニックによって男は愛情を覚えた。そんな中でキスをされたのだから、夢心地だったに違いない。まさか死ぬとも知らず。  心情を計れば気の毒やなぁと思った。それでも一瞬だけで、剣を出した羅井は躊躇なく首を撥ねた。
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