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ハルコはスマホを握りしめながら、いつの間にか居間で突っ伏して寝てしまっていた。その背中の上には、タオルケットと、猫のオタマが乗っていた。ハルコはゆっくり仰向けになると、オタマはハルコの背中からお腹の上へ移動した。
窓から外を見ると、太陽はすっかり沈み、暗闇が部屋に忍びこみ始めていた。少しの期待を胸に覗き込んだスマホには、トモキからの連絡は何もなかった。台所からはミチコが夕飯の支度をする音がしていた。
ハルコは台所を覗きにいくと、ミチコは少し心配そうにハルコを見た。
「夕飯どう?食欲はある?」
「うーん……」
ハルコは体を捻りながら少し考え込んだ。
「お母さん……自転車貸して」
「いいけど、どこ行くの?」
「ちょっとコンビニ行きたくて」
「えー、ちょっと遠いけど大丈夫?車出そうか?」
「大丈夫」
ミチコは心配そうな表情をしながらも、エプロンから鍵を取り出すとハルコに渡した。
「もう暗いから、気をつけてね。遅くならないようにね」
「うん、ありがと」
ハルコはミチコから自転車の鍵を預かった。
都会の夜はなんて明るかったんだろう、と自転車を走らせながらハルコは思った。
夜道にはポツンポツンとある常夜灯と民家の灯り以外、光るものはなかった。少しだけ湿る夜風の中、どこまでも広がる暗闇とカエルの大合唱がハルコを飲み込んだ。
ハルコは自分の存在をゆっくりとその中で溶かすように、潮風で錆びたペダルをゆっくりと回した。
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