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「いつも、ケイが嘆いていたよ」
「ケイ様って、“神に仕える者”でキュウのお姉さん、だっけ?」
「そう。自分たちが祈ることで大陸総ての人々が平和に暮らせるなら、命を投げ打ってでも祈り続けるのに、って」
大陸中に僅か数人しか存在しない“神に仕える者”たちは、王宮でただひたすら平和を願って祈りつづける。
なのに今は彼女たちのそんな必死の祈りも虚しく、“神に対するモノ”は大陸の中にいつ発生するかわからない状況に陥っているのである。
「ケイは珍しくシャマーリード出身だから、他の“神に仕える者”みたいに守護する村がない。だから余計にシャマル総て、いやあいつのことだからシードルも含むだろう、とにかく大陸総てを守護する気持ちで祈りを捧げている。そんなケイだから、“神”もきっと他の“神に仕える者”たちより強い能力を与えたんだろうな」
タカの言葉はケイへの愛情に溢れていて、ユーシはほんの少し嫉妬を覚えた。
「タカ、ケイ様のこと好きなんだ?」
けれど、それを表に出してしまえる程素直じゃないユーシは、おどけた口調で訊いた。
「まあ、好きだよ。俺達三人共、弟みたいに扱ってくれるからな、ケイは」
タカの返事は軽かった。
その答えにユーシは嫉妬なんてしてしまった自分を少し恥ずかしく思う。
「姉弟だって言ってもケイ様は“神に仕える者”でしょ? なんでタカってばケイ様のこと呼び捨てにしたりとかできるわけ?」
いくら身内でも、その立場からして他の者は皆“神に仕える者”に対しては常に敬語を使う。
それは規則ではなく暗黙の諒解であり、またその敬意が自然と溢れてくる程に神々しい存在なのである。
「俺、カタっ苦しいのって嫌いなんだ。だから、俺も誰にも俺に対して敬語なんか使わせない。ま、それでも立場上仕方なく使わせることもあるけどな」
「立場って?」
「一応これでも近衛隊やってるからな。リンとキュウ以外の奴等は王の手前使わないわけにはいかないし」
「こ、近衛隊!? タカ、そうなの?」
つまり、シャマルにおける“戦う者”の頂点をこの年で極めているというのだ。
「ん、一応な」
「何で王邸離れてるの?」
「だから、それはおまえっていう“神に選ばれし者”を捜す為だって言っただろ。ケイに頼まれて、俺達三人は旅に出ることを決めた。でも本当は立場上王邸を出られなかったんだ。王邸の長老たちは仕来りにうるさいからさ。で、その辺りのしがらみの関係で、俺達は“行き交う者”って立場で旅をすることになったってわけ」
タカは当時のゴタゴタを思い出して少し顔をしかめた。
どこにでもいるうるさ型のご長老ってのは面倒でいけない、などとつぶやきながら。
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