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<1> スクア SQUA
少年が目を醒ましたのは、馬車が既に二つの村を過ぎた時だった。
「…………」
「起きたか?」
虚ろな目で自分を捉えた少年に、タカはその低い声で問い掛けた。
少し、いや自分でも驚く程に声色が優しい。
目を開けた少年に惹きつけられてしまった自分に気付いたからだ。
「……ここ、は?」
「馬車の中。俺たちは"行き交う者"だ。何も残っていない村に、おまえを残すのに躊躇った。だから、乗せた」
ものすごく、ぶっきらぼうな説明。
でも、タカにはそれが精一杯だった。なんとなれば、その少年の声がその瞳以上にタカを惹きつけて捉えてしまっていたから。
栗色の瞳は丸く輝き、同じ色の髪は柔らかくその幼い顔を縁取っている。
「もう、タカ。それじゃあんまりなんじゃない?」
リンが言った。
細い腰、長い銀色の髪。深い緑の瞳に通った鼻梁、赤い口唇。
総てがバランス良く美しく並んだその顔に少年が見惚れてしまったことに気付いたリンは、かなり機嫌よくにっこりと笑った。
「スクアの子でしょう? 村が"神に対するモノ"に襲撃されたってことはちゃんと覚えてるわよね?」
「……はい」
「あなたは、運良く生き残ってたの。だから、あたしたちがとりあえず拾ってあげたの」
「……やっぱり、死なない……」
「え?」
少年が呟いた一言が理解できず、リンは首を傾げた。
「オレ、なんか死なないんだよ。昔っから」
「は?」
今度はタカもアホ面で問う。
「崖から落ちた時も、馬にぶつかった時も、火事に巻き込まれた時も。ぜーんぶ、かすり傷くらいしかなくて、死んだりなんてしないんだ。だから、今回はさすがに死ぬかなーとか思ってたんだけど。やっぱり死ななかったみたいだ」
突拍子もないことを、あっけらかんと口にする少年を、タカはただ黙然と見つめていた。
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