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六時間目も終わって、クラスメートが帰宅や部活で慌ただしく教室を出て行く中で、勝悟はボーっと窓の外を見ていた。やることがないわけではなく、満を持したような梅雨明けの太陽の下に出ることが億劫なのだ。
「ねぇ、早く行こうよ」
同じクラスの真田恵里菜が勝悟に声をかけてきた。
恵里菜とは幼稚園から続く幼馴染だ。高校受験のときも絶対に勝悟と同じ高校に行くと、生涯二度とないぐらい猛勉強して、見事に合格を勝ち取った気合の入った女だ。
恵里菜が目力を生む大きな瞳で、勝悟の顔を覗き込む。
この目で見つめられたとき、勝悟は今でも恵里菜に対して引け目のような感情を感じる。
中三のとき、恵里菜の受験勉強につき合って、勝悟の部屋で二人きりで勉強を教えていたとき、男性ホルモンの勢いに負けて、無防備な恵里菜の唇を触ってしまった。
恵里菜は一瞬身体をびくっとさせたが、勝悟の指が触れたのだと分かって、何もかも受け入れる菩薩のような顔で、その行為を受容した。本能に突き動かされた自分と比べて、理性で受容する恵里菜の態度に、勝悟の理性が強力なブレーキをかけた。
思わず勝悟が手を引っ込めると、恵里菜は何も言わず勉強を続けた。
その日以来、恵里菜は自分に対して遠慮が無くなった。逆に勝悟は恵里菜の踏み込みの深さに後ずさりしてばかりだ。
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