第1話 踊らない心

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「じゃあ、行こうか」  のろのろと立ち上がると、教室の戸口で黙って立っている長身の同級生が目に入った。 「あっ、光一(こういち)。待っててくれたんだ」  勝悟は恵里菜と二人の気まずさを、いつも救ってくれる同級生の姿に救いを感じた。 「早くしろ、置いて行くぞ」  光一はそれだけ言うと、くるりと背を向けて部活に向かった。この機を逃さずと勝悟も慌てて後を追う。  二人の背の後を、恵里菜が嬉しそうな顔でついていく。  よくある日常の光景だ。 「キェー」  裂ぱくの気合と共に、豪剣が空気を裂く。  勝悟は竹刀とは思えぬ迫力ある一撃を、きわどく交わして小手を決める。現代剣道のルールであればこれで一本だ。 「好調だな。インターハイは期待してるぞ」  一本取られながらも、主将の神谷(かみや)が満足そうに激励する。 「はい」  答えながらも勝悟は虚しさを感じていた。  持ち前の運動神経で神谷が相手でも、十戦すれば七本は勝悟がとる。だが後三本の神谷の剣は一刀両断の勢いがあった。もし実戦ならば細かく傷をつけても、一撃で致命傷を負わされる。そういう差が両者の剣にはあった。
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