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「じゃあ、行こうか」
のろのろと立ち上がると、教室の戸口で黙って立っている長身の同級生が目に入った。
「あっ、光一。待っててくれたんだ」
勝悟は恵里菜と二人の気まずさを、いつも救ってくれる同級生の姿に救いを感じた。
「早くしろ、置いて行くぞ」
光一はそれだけ言うと、くるりと背を向けて部活に向かった。この機を逃さずと勝悟も慌てて後を追う。
二人の背の後を、恵里菜が嬉しそうな顔でついていく。
よくある日常の光景だ。
「キェー」
裂ぱくの気合と共に、豪剣が空気を裂く。
勝悟は竹刀とは思えぬ迫力ある一撃を、きわどく交わして小手を決める。現代剣道のルールであればこれで一本だ。
「好調だな。インターハイは期待してるぞ」
一本取られながらも、主将の神谷が満足そうに激励する。
「はい」
答えながらも勝悟は虚しさを感じていた。
持ち前の運動神経で神谷が相手でも、十戦すれば七本は勝悟がとる。だが後三本の神谷の剣は一刀両断の勢いがあった。もし実戦ならば細かく傷をつけても、一撃で致命傷を負わされる。そういう差が両者の剣にはあった。
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