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勝悟は小学生のときに、恵里菜の父が教えている剣道クラブに入り、天分もあったようで剣道に関しては全国クラスの実力となった。中学生のときは全中のベストフォーまで進んでいる。
それなのに高校に入って神谷に出会い、急速に剣道への情熱が冷めてしまった。神谷の剣は武道であり、自分のそれはゲームにしか過ぎない。毎日の練習でその差を実感するだけに辛かった。それどころか、器用に一本を取る自分と比べ、光一や恵里菜の一振りの方が神谷の剣に近いようにも感じる。
ならば勝悟も今までのスタイルを捨てて、神谷の剣に近づく練習をすればいいのだが、なまじ実績があるだけに周りがそれを許さない。現に本来自分が目指したい神谷が、自分に対して大きな期待を寄せているのだから、方向転換も容易ではない。
心に葛藤を抱えながらも部活を続けているのは、ただ神谷の剣と触れるのが心地良いからだ。自分にないものを肌で感じるために来ているのだ。
「勝悟って最近さえない顔してるときが多いよな」
部活の終わった帰り道、ようやく沈みかけた夕陽が照らす道を、三人で帰る途中で光一が何気なく呟いた。
「ホントだよ。なんか心ここにあらずって感じがしてヤダ」
恵里菜が我が意を得たりという顔で責めてくる。
「何となくなぁ、このまま未来に向かって進むのに力が入らないって感じなんだ」
勝悟は気の乗らないような感じで、とりあえず答える。
その言葉に二人が反応して、勝悟の顔をまじまじと覗き見た。
気まずい空気が勝悟の周りを覆う。
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