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「何?」
耐え切れずに勝悟が訊くと、二人は無意識の内に声を合わせた。
「こっちが訊きたい。どうしてそんなことを思う、の?」
答えないと収まらなそうな二人の様子に、勝悟は億劫に感じながらも自身の気持ちを語り始めた。
「これは俺の気持ちだから分かってもらうのは難しいと思うけど、このまま既定のレールの上を走って行っても先は見えているような気がするんだよな。社会に出ても制約だけが多くなって、エキサイティングとは無縁な人生の予感がする。最初はいいんだ。克服しようと考えることはとても楽しい。でもすぐにワクワクしなくなる。それが繰り返されると、だんだん憂鬱になってしまうんだ」
二人は呆れたような顔をして、改めて勝悟の顔をまじまじと見た。
続けて溜息をつく。
なぜかこういうときの光一と恵里菜の息はぴったり合う。
「やれやれ、俺たちが大学受験すらどうなるか分からなくて悩んでいるときに、なんて呑気な悩みなんだ。天才に生まれるのも考えものだよな」
光一が再び溜息をつく。
「そうよ、東大合格が確実だからと言って、世の中なめすぎじゃない」
恵里菜はだんだん舌鋒が鋭くなる。
二人の強い批判に、やれやれといった顔をして勝悟はぽつんと呟いた。
「気を悪くしたならごめん」
所詮他人にはこの思いは分かりはしない。
自分でも恵まれていると、頭では分かっているつもりだが、気持ちが上がらないことは自分でもどうしようもない。
勝悟の情けない顔を見て言い過ぎたと気づき、ばつの悪い顔で謝罪を口にする二人に対し、いいよいいよと、いいかげんに頷きながら、勝悟はこの話をクローズする。
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