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帰宅して夕食をとり、風呂に入ろうとすると、恵里菜からラインが来た。帰り道で責めたことを気にして、再度謝ってきた。悩んでいるならまた相談して欲しいとも書いてあった。
単なる幼馴染だった恵里菜と付き合い始めたのは、中学を卒業してすぐだった。二人揃って南高に合格した日から、恵里菜は告白の機会を図っていたようだ。勝悟も男性ホルモンの影響とは言え、恵里菜は魅力的な異性だったから何の抵抗もなく承知した。
南高入学後は、勝悟がモラトリアムに陥ってしまったため、二人の仲も停滞気味だ。決して恵里菜のことが嫌いになったわけではないが、二人でいても前のように無邪気に楽しみを共有できない。
それが伝わるのか、恵里菜も二人になることを避け始めた。
決定的な破局が怖いからだ。
そういうわけで、最近は光一と三人になる機会が多い。
光一は中学のときに同じ剣道部で、成績トップを争ったライバルだったが、お互いに理解し合ったのは中三で同じクラスに成ってからだ。二人の間を取り持ったのは、なんと恵里菜だった。
光一は隙のない俊才で、滅法試験に強く、ケアレスミスは皆無だった。一方勝悟は気が抜けると何でもないミスをして、光一の後塵を拝することも多々あった。
ところが、いったん難問に取り組むと状況は一変する。勝悟は中学生にして東大数学の入試問題を制覇し、英語ではニューヨークタイムスを難なく読みこなす。中学という枠を外して無差別級で学力を競ったら、光一が勝悟に及ばないのは明らかだった。
そうした二人の違いに気づいたのが恵里菜だった
恵里菜の指摘で、光一は勝悟の天賦の才を認め、勝悟は光一の現実的な対応能力に敬意を払った。加えてその頃の勝悟は、遠慮せずに知識全開で話せる相手がいなくて、光一はその意味でも得難い存在だった。二人は急速に接近した。
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