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光一は勝悟も驚くほど歴史マニアだ。特に戦史に強く、その見識は古代から近代までの世界中の戦争に及んだ。火器が未発達の古代戦は特に興味がそそられるようで、カンナエの戦いにおける光一の見解を、勝悟はもう何度となく聞かされている。
勝悟は光一との会話の中で、別の面で過去の世界に興味を抱いた。産業革命以前の戦争には、人間臭いロマンがある。もちろんいつ命を無くすか分からないリスクは変わらないが、豊臣秀吉のように己の才覚がダイレクトに時勢に反映しやすいように感じる。戦争も近代戦に近づくにつれ、組織的で味気ないものに変ってゆく。
もし自分が戦乱の世に生まれる権利があるならば、産業革命以前の時代を望むだろう。
勝悟は湯船の中に頭を沈めた。時間が経つにつれてだんだん息が苦しくなる。酸素が不足して思考ができなくなってきた。この世界と切り離されるように感じた。
生存本能が働いて湯から飛び出た。
大きく息をする。
この世界は何も変わってなかった。
翌朝も太陽はじりじりと大地を焦がした。梅雨明けから夏休みまでのこの一カ月が、勝悟にとって一番学校への足取りが重くなる季節だ。
教室に入ると光一と恵里菜は既に来ていた。この二人はなぜか一年を通じて朝が早い。勝悟も朝が弱いわけでもないが、この二人は特別だ。
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