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「ちゃんとつくぞ、ほら」父親は泥のついた懐中電灯を点灯させた。「電池切れも接触不良も起こしてないぞ」 「うそだあ」  僕は懐中電灯を受け取り、自分で操作してみた。  黄色い透明な光が点いた。 「おかしいなあ。で、玄関に誰もいなかったってホントなの?」  僕にとってはそちらの方が不気味だった。懐中電灯や虫捕り箱を玄関先に置ままいなくなってしまうなんて不自然だ。  あの暗い森の中で、僕が落し物をするところを、見た人がいるのだろうか。仮にいたとしても、どこにいたのだろう・・・僕はゾッとした。 「きっと、近所の人が拾って届けてくれたんだな」 父親がとりつくろったように言った。「森の中で落としたのではなくて、ウチの玄関先かどこかで落としたんじゃないのか?」 「そんなはずないよ。だって」  ふと思いだして、僕は絶句する。まさか、あの半纏の褌一丁のオヤジが? 「さあ、今夜は風呂に入って寝ろ。明日は、酒屋さんでお神酒を買って、そのあとは駅前の桜堂に行くから、朝寝坊するじゃないよ」  桜堂とういうのは界隈では有名な和菓子屋さんだ。  僕は腑に落ちないまま、浴室に向かった。  虫捕り箱が投げ出されるように畳の上に置いてあった。捕獲箱の中を覗くと、カブトムシやクワガタがちょろちょろ動きまわっていた。  そのうちの一匹と目が合った。まるで意思があるみたいに、僕を見つめている。僕は、フンと鼻を鳴らして睨みかえしてやった。虫ごときにまで薄気味悪い何かが憑依しているような気がしたのだ。
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