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わああああああ
どこをどうやって走ってきたのか、分からない。
気がついたら、僕は雑木林の外に出ていた。
汗びっしょりだった。
家々の明かりが見えた時は、安堵のあまりその場に座りこみそうになった。
懐中電灯はどこかに落としたようだ。クワガタムシの捕獲用箱もなかった。
家に着くと、両親が驚いたように僕を迎えてくれた。
僕は森の出来事を話した。
父親が神妙な顔つきになった。
「そりゃ、氏神様の家を夜中に壊したようなもんだ。だから、氏神様が怒って、出てきたんだよ。あした、お供え物でも持っていって、謝ってこい」
僕はてっきり笑い飛ばされると思っていたから、父親の言葉は意外だった。
「うん、わかった。でも怖いから一緒にきてよ」
「しょうがねえなあ。お神酒と饅頭でもお供えするか」
「もう懲りたから、しばらくクワガタ採りはやめるよ」
「そうだな、そうしろ。その分、勉強しろ」
その時、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
「あら、こんな時間に誰かしら」母親が玄関の方を振り向いた。「不審者だったら怖いわねえ」
「よし、俺が見てこよう」
父親が立ち上がって玄関へ向かった。その手には野球のバットが握られている。
「はーい、どちらさんで?」
父親の声がする。ドアの開く音。
しばらくして、ドアの閉まる音と鍵を掛ける音がした。
「お父さん、誰っだったの」
母親が尋ねた。
父親はそれには答えず、僕の方を向いて言った。
「誰もいなかったよ。そのかわりに、これが置いてあった」
それは、虫捕り箱と懐中電灯だった。
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