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 女が出て行ったあとには空き缶と、妙に安っぽい香水のかおりが残ったという。  勝手にあがりこんで飲み食いして出ていくという、まるで猛獣みたいな友人はいないし、ましてや家の中をあら探しするような奴とはいくらなんでも仲良くしたくない。  そう答えると「確かに、その通りだよな」と父も納得していた。  被害がお酒と菓子だけでよかったと、私と父は思うことにしたし、友人との集まりから帰宅した母も「しょうがない子がいるのね」と前置きして、責め立てたりもしなかったのでほっとした。  数日のち、考え方が合わず疎遠にしていた「知り合い」から久しぶりにメールが届いた。 「こないだわざわざ来てあげたのに、お父さんにおこられた。お客さんをどなるなんて、やっぱり品がない人の家族って似てるね。気分悪い。次は忘れないでよ」  そんな一文のあと、あれを用意しておけとか、これを買っておけというリストがメールに直接打ち込んであった。誰が仕込むか、と私は毒づいてメールを削除した。  体調不良だと言って映画をドタキャンして彼氏とドライブ、それをSNSに掲載したことで嘘がばれてからも「だってつまらなそうだもん、わざと難しいの観るとか理解できない、怒るとかおとなげないし、おかしい」とうすら笑いを浮かべつつ、意味不明な持論を述べていたような奴だから、もう関わりたくない。  私のことも「どうしてあんたばかりほめられるのよ、生意気」とぶつぶつ言っていたけれども、会社で日がな一日、パソコンかスマホでネットサーフィンしているのだから注意する要素こそあれ、褒められる要素はない。  だからそのたびに私は「じゃあ仕事すればいいだろ」と低い声で言い返せば「冷たいんだね。品がないうえに怖いし、なんかぶさいくだよ」とおびえられた。結局無断欠勤を何度かして、辞めていったのでどこにいるかも知らない。  まさか、こんな感じでやってくるなんて後味が悪すぎる。  夕飯前のぼんやりした時間に話すことではないが、回想しだすと私も父も薄気味悪さが増して、お互い苦虫を噛み潰したような顔になった。
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