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陽に透き通らせて、たわわに実る葡萄よ。それはまるで、紫水晶(アメジスト)の如く神秘的に輝き、或いは、みずみずしく、ゼリーの粒の如き美味しそうに輝き、まだ稚い少年を幻惑する。
少年は真っ黒い眼を見開いて、小さなイソギンチャクの生まれたばかりの、幼生の如き白く透き通った、可愛らしい手を、葡萄の房に伸ばす。
葡萄の粒は、その一粒一粒に、新しい命を宿らせているかの如く、小さく震える。まるでそこから、カエルかメダカの子か何かが、胎嚢を、朱く腫れたかのようなそれを、苦し気に抱え込みながら、勢いよく飛び出してくるのではないか・・・と観ている者どもを、神秘の、命の神髄の底へと誘い夢想させられる。
少年はあと少し、あと少し、と指を葡萄の房へと伸ばすが、どうにも背が届かない。
躰を、地を足で強く蹴って、宙に浮かせても、どうしても指先すらも届かない。大地は、強力な力を、重力と云う絶大なる力で、少年のか細い脚を地へとただちに、残酷なまでに押し戻す。少年の一粒の泪のような抵抗は、最早どうすることも出来ずに、露と消える。
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