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「……負けたよ君たちには。まさか縄文杉を使った貴重なデスクにこんなものを仕掛けるとは思いもしなかったよ。それに、いくら小型とは言えこんな見慣れないものに気がつかなかった私のミスだ」
ここみが右手で顔を覆いながらやや自嘲気味に笑うと、サラブレッドの尾が軽やかに揺れる。
「あら?そのデスクはお値段以上の家具屋さんで買ったものですし、その椅子も近くのリサイクルショップで買ってきたものですわ?」
明日架は両手を腰に据えて高らかに笑う。
「そ、そんな!だってそれじゃあ、この使い心地はどう説明するんだい!?」
「それは、生徒会長であるあなたの心構えが立派だということですわ。どんなに安いものであっても、大切にして慈しめばお値段以上の輝きでそれに応えてくれるんです!歴代の生徒会長もそうやってきたんですよ」
明日架は天使の様な微笑みを向けた。
ここみと音緒はまるで雷に打たれた様な衝撃を覚え、明日架のセリフは今回の事件を引き起こした盗人張本人の言葉にも関わらず、何故だか胸に染み込んでいった。
「そうか、人間として大切なことを忘れていたよ。ものを大切にする心か。ありがとう明日架くん。それと、今回の生徒会長印紛失事件はやはりちゃんと公開するよ。君たちが悪用しなかったとはいえ、盗まれたのは事実だ。それが、紅葉坂女子高等学苑生徒会長の務めだからね。ちゃんとけじめを取りたいのさ」
「ここみちゃん、やっぱり立派だね。肩書きや血統、生まれなんかじゃなくて、ここみちゃんはここみちゃんだから生徒会長なんだよ!」
音緒はここみに抱きついて心底嬉しそうに笑った。
生徒会に入って以来、どこかよそよそしかった音緒の態度は生徒会などというしがらみのなかった親友の頃のそれに変わっていた。
そんな2人を見て、寧衣良は涙を浮かべながら何度も頷いている。
「ここみ会長なら、歴代のどの会長よりも立派な生徒会長になれますわ」
明日架は満足そうに微笑みながら、寧衣良の肩に手を置いた。
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