ゴルディロックスの偸盗

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「それで、寧衣良くんはミステリー研究会。明日架くんは、これは何だい?ゴルディロックスクラブ?」  ここみは部活動新設申請書に目を通しながら眉間にしわを寄せた。  活動内容にはSeize the DAY!!としか書かれておらず、一体何の活動を行うかが全くもって不明だったのだ。 「Seize the day ……。今を生きる。ですね?」  音緒がここみの後ろから背伸びをして申請書を覗き込みながら尋ねると、明日架はゆっくりとデスク後ろの窓に歩み寄り、窓の外の風景を眺めたまま言葉を紡ぐ。 「そうです。私は考えました。誰もがある日突然事件に巻き込まれてしまうかもしれない中、今この瞬間を生きなければ損だって。過去に縛られたり、未来に囚われたりしていたらきっと目の前の大切な瞬間を見逃してしまう。たった3年の貴重な高校生活、私は今の私を生きようと思ったんです。  頑張りすぎず、かといってダラけすぎない。でもやりたいことは楽しんでやる。そんな丁度いい生き方。それがゴルディロックスクラブの目標です!」  何だか良いことを言ったつもりでいるが、要するに活動内容は決まっていないのだなとここみは心の中でつぶやいたが、すぐそばの音緒が瞳を輝かせていたので口に出さなかった。  明日架は振り返ると寧衣良の手を握り、ここみと音緒の前にゆっくりと歩み寄る。 「それに、私、ここみ会長と音緒副会長と仲良くなりたかったんです。だって、入学式で見かけてすごく素敵な方達だったから!それなら、楽しみながら出会わなくちゃ損でしょ!?だから、今回の事件もとってもゴルディロックスでした!これから仲良くしてくださいね!二人とも!」 「はーーい!私も私も!仲良しこよししたーい!!」  明日架のドヤ顔演説の後、寧衣良がジャンプをしながらここみと音緒にまとわりつく。  すでにこの怪しげなクラブに取り込まれたのか、楽しそうに笑う音緒を見てここみはしてやられたと思ったが、その麗しい唇から小さく微笑みを漏らすと引き出しから生徒会長印を取り出した。 「よし!分かった!ただしやるからには全力でやること!それが条件だ!そして、我が校の理念を守ること!理念は!?」 「「ソフィスティケート!エレガント!グレイスフル!」」  寧衣良と音緒が笑いながら声を合わせると、明日架も振り返り麗らかな日差しを浴びながら16歳の少女らしく微笑む。 「「「「チャーミング!」」」」  4人の声が一斉に揃った。  ここみはそれと同時に時には世界を滅ぼしかねない魔力を持つという噂の生徒会長印に朱肉をつけ、申請書に力強く押し付けた。 「ミステリー研究会、部長、恋澄 寧衣良!ゴルディロックスクラブ、部長、紅葉坂 明日架!部活動新設を許可する!!」  この日、春が終わり、もうすぐ梅雨が訪れようとしていたこの横浜の街に、新たな部活動が新設されたのだった。  着任したての2人の部長はお互いの顔を見合わせた。  それぞれの瞳に映ったのは悩みなんて何もない様な、でも、日々をどこか一生懸命生きている様な、そんな笑顔だった。  かくして核戦争勃発の危機は脱し、このマッチポンプとも言えるとんだ茶番な盗難劇の幕は降ろされたのだ。  今日も世の中の平和は守られている。  紅葉坂女子高等学苑生徒会によって。 <ゴルディロックスの偸盗 おしまい>
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