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「うちの高校、必ず部活動をしなくてはならないでしょう?」
明日架は椅子に横に坐り直すと、寧衣良の机に肘をついてソフィスティケートでエレガントでグレイスフルなため息をついた。
「でも、私運動部にも文化部にも面白そうなところがなかったのよねぇ。敢えて極東の島国の反社会的楽曲風に言えば、あれもしたい、これもしたい、もっとしたい、もっともっとしたいの」
寧衣良は明日架のぱっちりと開いた大きな目を飾る凛と上を向いた長い睫毛の先についた、先ほどの家庭科の授業で使った刺繍糸の糸くずを見ながら話を聞いている。
「それでね、私は人生で一度しかないこの高校1年の貴重なゴールデンウィークの全てを使って生徒手帳を端から端まで、それこそ句読点の一つ一つまで読み込んだの」
寧衣良は冬眠から起きてきたばかりの子グマの様にあくびを堪え、潤んで輝く大きな瞳で明日架を見つめている。
「そうしたらなんと!誤字が2箇所も見つかったわ。信じられる?この紅葉坂女子高等学苑300年の歴史において誰も気がつかなかっただなんて!すぐさまお爺様に抗議したわ。テストで間違いを見つける前に生徒手帳の間違いをなくすべきだって!寧衣良もそう思わない?」
お爺様とは明日架の祖父のことで、この学苑の理事長のことだ。
寧衣良は手渡されたポスターをまるでひまわりの種を食べるハムスターの様に持ちながら高速で頷く。
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