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新幹線で駅に着き、そこから少し歩いて亘の店に到着した湯島だった。
夜九時をまわってもまだまだ人の多いこのイタリア料理店は、中から柔らかい光が零れていた。この中に美砂がいるのだと思うと早く会いたい気持ちが出てくるが、湯島は窓から見えた彼女の働いている姿に見とれてしまっていた。
───俺、なにやってるんだろ。これじゃさっきの杵島 若菜と変わらないじゃないか。
そう思うのだがとても興味深くて。美砂が。笑ったり真剣な顔をしたり慌てたりしている様子が可愛すぎて。
お客さんと会話をしたりしている彼女を見ると、目が離せないのだ。きっと自分が店内に入った瞬間に意識するだろうからそのまま外から眺めていた。
───まるで不審者かストーカーだな。
自分自身にツッコミをいれながら深くため息をつく。
散々見たあと、気持ちを入れ替えて店内に入ったのだった。
◇◇◇◇
「兄さん! 来てくれたんだ?」
一番最初に見つけてくれたのは亘だった。
「うん、ちょっと時間が出来たから美砂を迎えに来たんだ。今忙しそうだな?」
「うん、お得意さんが来られてね、でも今帰ったところだからさ。大丈夫。珈琲でも飲んでいってよ」
湯島は、端の席に座り美砂の様子を目で追った。まだこちらには気づいていないようだ。
ん? バイトの子だろうか? すらっとした大学生のような子と仲良さそうに話をしている。
なんだかちょっとモヤっとするが……。
いったい誰なんだろうか、あれは?
─── だめだ、やっぱり俺は不審者だ。たかだかお店の従業員同士話をしてるだけなのに。重症だ。
はー、とため息をついた時に亘が珈琲を持ってきてくれた。
「なあ、美砂の調子はどうだった? 落ち込んでなかったか?」
つい訊いてしまう。
「んー、思ったよりも大丈夫そうに見えたけど。でも無理してるんだろうな。今日もニュース見たよ。すごい事に巻き込まれたよね」
「ああ。ぞっとするよ……」
湯島は一口飲んで答えた。
「そういえば亡くなったご主人が持っていたスマホを見せられたんだけどさ、ステッカーが貼ってあって、これはなんの建物かわかるかって訊かれたんだ」
湯島は目線を上げて亘を見つめた。
「それはサンタマリアの教会とドメニコ修道会だったよ。なんでそんなものを貼り付けてたのか謎なんだけど。宮永さん、パスワードも分からないから悩んでた」
そうか。
まだそれがあったか……。
なんでそんな謎を美砂に託すのだろうか?
「なあ、亘おかしくないか? 普通警察に晶っていう女のことを突き出すなりしたらいいことなのになんでこんなまわりくどいやり方をするんだろうか? 中には二人の思い出の写真でも入ってんのか?」
そう言って、湯島は皮肉っぽく笑った。
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