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「うーん、……記事読んだけど被害者の山口晶っていう女は裏表があったらしいよ? ややこしい関係の中でなにか宮永さんに残したいものでもあったのかなあ?」
「俺にはわからない。俺だったら自首する」
「そうだね……普通はそうだろうけど、そうはいかない環境だったのかな? 容疑者の言うことが正しければ脅されて無心されてたって事らしいから」
亘の言葉に湯島は顔を顰めた。
「……亘、きっとここにも警察がくるぞ」
「うん。もうすでに連絡いただいたよ。宮永さんの雇用状態を訊かれた。これは本人にはまだ言っていないけど」
「……そうか」
明日には直接来るかもしれない。自分がここにとどまれるのは少しの間。またきっと東京に呼ばれるだろう。その時美砂が不安になるようなことが起こらなければいいんだが。
そんな事を考えていると、丁度バッチリ美砂と目が合った。一瞬、ビックリしたように瞳を大きく開けて、それからふっと微笑む。
―――ああ、なんて可愛いんだ。
式が終わってから髪の毛の色もまだ黒いままだったが、茶色でもなんでも似合う。優しいその表情と細い首。華奢な……
―――俺はホント重症だな。
「おかえりなさい!」
美砂は嬉しそうに近寄りそう声をかけてくれた。
「ただいま。美砂よく頑張ってるんだな。いま亘と話をしてたんだよ、な?」
「ああ、うん。宮永さんは毎日すごい成長してるよ」
「良かったよな。俺はここで仕事の邪魔にならないようにゆっくり待ってるよ。そのまま仕事に専念しててくれ」
ああ、そうだ。
亘のところにもと思って買ったお土産がある。東京のよくあるお菓子だけど、きっと従業員で食べてくれるだろう。
紙袋のまま亘に手渡した。
「ありがとう、兄さん」
「うん。またみんなで食べてくれ」
「うん、そうさせてもらうよ。もうあがっていいよ、宮永さん」
「え? いいんですか?」
キョトンとする美砂。
「うん。もう少しで時間になるし。気にしないであがって。そうじゃないと兄さんに睨まれそう」
苦笑しながら亘は言った。
「……すみません。ではお言葉に甘えさせてもらいます。お疲れ様です」
丁寧に頭を下げて、帰り支度を済ませた美砂だった。
少しの間だったのにとても久しぶりのような気持ちがする。きっと心配して駆けつけてくれたんだ……。美砂はじっと湯島を見つめた。
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