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そのあと湯島のマンションへ向かった二人は、鍋を作り一緒に食べて幸せなひとときを過ごした。
湯島は食後、紙袋を手渡して美砂に「お土産だよ」と笑ったのだった。
開けてみると、中には丁寧に包装された箱と美しく光るチョコレートが入っていた。有名なベルギーのお店らしく、お菓子と言ってもかなり高価そうだ。
「ありがとう! すごく嬉しい! たまに甘いものって食べたくなるんだよね」
「食べてみなよ」
今度は、二人で極上のチョコレートを口に入れて甘い時間を過ごす。
食べながら美砂に仕事のことを話す湯島は、輝いて見える。きっと仕事が好きなんだなと伝わってくる。美砂は微笑んだ。
お風呂も二人で入ってチョコレートに負けないくらいの甘い時間は続く。
そして、二人でベッドの上にあがると、美砂の髪の毛を撫でながら湯島は「大変だったな」と声をかけた。すると一気に曇り顔になり、美砂は泣きそうな声を出したのだった。
「異常、だったと思うの……。怖かった」
その言葉に美砂を胸の中に閉じ込めて「大丈夫だよ」と優しく言い聞かせた。
「いろんな事が起こりすぎたんだ。きっとそれで心も疲弊してる。あまり考えるなよ。辛いときは俺の事ももっと頼ってくれ」
それは心からの願いだった。
もっと辛いとか悲しいとか素直にぶつけて欲しい。美砂に知って欲しい。自分がいつも美砂を守りたいと思っていることを。
「……うん。ありがとう」
「ありがとうじゃなくてさ、もっとぶつけてきてくれよ」
ぎゅうっと腕に力を込めると、「いたい」と美砂が身体をひねる。そんなところも可愛いと思えてしまうから愛って不思議だ。
「な、本当は不安でたまらなかったんだろ?」
「……うん。警察の人が来たらって思うと怖いし、噂になっても怖いって思ってる。亘さんやお店に迷惑をかけてしまうんじゃないかって……」
「警察が来たら健さんのスマホの事も素直に言って渡したいいと思うよ、俺は」
提案してみた。
けれども美砂は返事は聞こえてこなかった。
「……美砂?」
「……うん、心配してくれてありがと。でもさ、これってわざわざ私に預けたって事だよね? なんかメッセージとか入ってんのかなって思って……。渡していいのかな?」
どうやら美砂の心の中には、完全に健が居座ったようだった。
心にあれだけのダメージと最期を見せて心の片隅を奪ったんだ───湯島は険しい顔を隠せなかった。
「でもそれは証拠になるかもしれないだろ? だったら持っていると余計に怪しまれるだろ」
「そう、だね」
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