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美砂は納得していないような返事をした。それがかえって湯島の心を刺激する。
「美砂はこれがそんなに大切なのか?」
「う、うん……大切って言うかこれを見ないと解放されない気持ち」
それは何となくわかる。
わかるけれども……。
「それを持ってることによって君も疑われたら元も子もないよ?」
「んー、そうなんだけどね…………じゃあさ……」
湯島の身体に抱きついたまま美砂はじっと見つめてきた。
「一緒に考えてくれないかな?」
「うん?」
「今夜中に二人で考えて、それでも分からなかったら警察へ渡すわ」
湯島はしばし絶句した。
まさか美砂から初めて頼られたのがこんな内容だなんて。元旦那のスマホ解除だなんて。嘘だろ。
「…………君、それで納得できるのか?」
「うん」
溜息をつきたくなる心境をグッと抑えて、美砂の言葉に従うことにした。彼女には本当に幸せになって欲しいから。自分が協力して答えが出るのならなによりだ。
それに従うしかない。
「…………とりあえずそのスマホ出して」
「うん」
美砂から預かったスマホのカバーを外す。
すると、やはり聞いた通り、ドメニコ修道院のステッカーが貼られていた。湯島は自身のスマホで最後の晩餐について調べ始める。
「美砂、この件で他にこれかな? と思った番号はないのか?」
「あ、あるの! 最後の別れ際で健が『12月24日 12階』って会話をしたの。それは二人で初デートした記念の日で……」
「あ、もういいから」
湯島は仕事で疲れきっている頭をフル回転させる。12.24.12―――誕生祭前日のイヴ。12……
最後の晩餐の壁画にはイエス・キリストを含めて13人描かれている。じっくり見つめる。美砂も息を飲んで見つめた。
12人じゃない。
ここには13人。
もともとこの壁画を書いたレオナルド・ダ・ヴィンチは、右から記していく画家だったと昔聞いたような気がする。
どうだったか……湯島はぐっと深く脳内に潜り込んだ。
「美砂、その健さんはキリストに目覚める人? もしくはこの画家に興味があるとか歴史に深い人?」
美砂は横に首を振った。
「ないと思う。そういうのは全くない人」
じゃ、イマドキ風に左から数えるか。
湯島は左側から描かれている人物について調べ始めた。その沈黙に寄り添って美砂も画面を覗く。
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