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とはいえ、時計を見るとすでに会話をし始めてから1時間半は経っている。自分が熱心に話しすぎていたのかもしれない……。
美砂は警察署を後にして、深く息をついた。
もうあとは警察に任せるしかないんだ――
◇◇◇◇
―――「ただいま」
「おかえり、美砂」
今日は湯島が半休をとって待ってくれていた。「会社行ってよ」「美砂が心配だから待ってる」を朝から何度も繰り返してやっと出られたのだ。
本当は、湯島に仕事をしてほしい。自分は足枷にはなりたくないから……そう思うのに。
「どうだった?」
「うん、全部喋ってきた。相手はなんて思ってるのか分かんないけど、少しでも捜査が前に進むといいな」
「そっか……。よく頑張ったな。コーヒー飲むか?」
美砂は素直に頷いた。
リビングにあがって上着を脱ぐ。
「ねえ、捜査がどうなってるのかとか知る手だてはないのかなあ?」
何気なしに言った一言だった。
「えっ? なんで?」
湯島がティーカップを持っていた手を止めてすごい顔でこちらを見たのだ。
「や、……だって気になるし」
「気にしなくていい。そんなものは。あとは他人事でいいと思うよ」
「え、でも私は一応関わってるわけだし……」
「ダメだ。考えなくていい。美砂はこれからの事だけを考えたらいいんだよ」
えらく硬い声音で諭されたのだった。
湯島が珍しい態度だ。
「どうしてそう思うの?」
「……巷ではなんとでも書いたり言ったりするやついるだろ? そんなのに傷ついたりしなくていいから……何も今は知らなくていいんだ。美砂は、気にしなくていい」
「それって……テレビとかネット?」
そうえば、湯島はこの家でテレビもつけなかった。二人でいる時、常になんの雑音もなくて。以前はそんなこと無かったと思うのだが、やはり気にしてくれてるんだろうか?
「……ひょっとして、私のためにテレビとか遠慮してた?」
「……君との時間にテレビは要らない」
「ふーん……。でも見ちゃうかも……」
途端、ギョッとする彼の顔に美砂は悟った。
―――ああ。
きっと、何か色々と言われてるんだ?
私の事だろうか?
それとも景子さんの事?
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