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「ううん、連絡くれて嬉しいよ。やっぱりニュースになってるんだ?」
『なってるよ! え? 知らないの?見てない?』
意外そうな恵の声。
そうだ……。
自分は何も見てない。
恵は、何を見たんだろうか?
「なるべく見ないようにしてるんだ。なんか色々書かれてるのかな? どういう風に言われてるの?」
美砂は訊いてみた。
夕暮れが終わりかけてる空を見上げながら。
『……そうなんだ……そっか。見てないならその方がいいよね。……あの、大変だったね。美砂の事が心配でさ、それで電話しちゃったのよ』
気を遣うものの言い方がまたなんとも彼女らしくて。
「ありがとう。ごめんね心配かけて。たしかに大変だったよ。お葬式の最中にそんな事になるなんてさ」
『やっぱりそうだったんだ……。健さん……最期まで……』
そう言って恵は言葉を詰まらせた。
彼女だって言葉を繋げるのはしんどいだろう。けれども美砂はとても気になった。自分がどう言われてるのか彼女なら知ってるのだろうか?
「ねえ、世間ではなんて言われてるのかな?」
思い切って訊いてみたのだった。
『ん? まあ、それは……お葬式の最中にあった事件をみんな色々言ってる感じだよ。奥さんでもない人が喪主してたとか、お金の問題とか……でも、でもねみんな憶測……っ』
「ちょっと待って! 今なんて言った?」
美砂はスマホを握る手に力を入れた。
奥さんじゃない人?
だれが?
『なんか、ほんの少しの間同棲してた女の人が仕切ってたんでしょ? それでご両親が来てないお葬式ってどうなのかなとか、お金の問題とか……ニュースで言ってる……。ごめん、こんな話聞きたくないよね……美砂』
その言葉に美砂は息を飲んだ。
同棲?
結婚してたんじゃなくて?
「それって、恵……、健さんは晶さんとは婚姻関係ではなかったってこと!?」
『ん……最初は【山口晶さん】って報道されてたけど……今は同棲してた女性って報道されてるよ…… その人って、浮気相手の女の事なの? ねえ、何があったの?』
「彼は、私と別れる時、その人と結婚するって言ったの……。だからてっきり奥さんなんだと思ってた……。お葬式の連絡もいただいたくらいだし……」
言いながら、ちょっと待て、と頭の中でブレーキがかかる。
おかしくない?
今までの言葉の一つ一つがまるで奥さんそのもので。
自らも、伊吹ではなく山口晶と名乗っていたじゃないか……?どう考えても婚姻関係だとしか考えられない。
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