11489人が本棚に入れています
本棚に追加
『お葬式の連絡をもらったの? 浮気相手から? ちょっと……なんか意味不明なんだけど……』
「そうよね。普通に考えたら変よね。てっきり籍を入れてるのだと思ってた……私」
『んー……でもまだハッキリとした事を報道されてるわけじゃないから複雑な気持ちだわ。で、やっぱりその昔っからの浮気相手の女だったわけでしょ? 晶って人』
「うん……そうなの」
『ほんとにもう! 信じられないっ!』
恵の声はスマホを通り抜けて天まで届きそうな勢いだ。キンキンと耳に響く。
「でも私、今はなんとも思ってないから。大丈夫。そのあと入院してる彼にも会いに行ったの」
美砂は経緯を簡潔に話した。そして最後に付け加える。今大切なのは自分の心と周りの人、そして未来だということ。
『……そっか。なんかごめん。夫婦って色々あるよね……なんか私のほうがモヤモヤしちゃってたね……美砂が落ち込んでないのならいいよ……そうだ! 仕事はどう? 楽しい?』
「うん。すごく楽しいの。毎日充実してる。あと、湯島さんともお付き合いしてるの」
『えっ! ほんと!?』
「そうなの。だから大丈夫」
『あー、やっぱりそうなったかあ。なんかいらない心配しちゃったなあ。湯島さんが傍にいてくれるならいいよね。守ってくれそう、なんか』
うん、守ってくれる……
彼の想いをすごく感じるから幸せだ。
「うん。幸せかもしれない……事件のことはすごくショッキングだったけど、あとは警察の人に任せるしかないかなって思ってるし」
その言葉に恵は同意してくれた。
ほんとに、こんな風に心配して電話をくれる友達までいるのだから自分は幸せ者だと思う。そう言うと彼女は笑った。
そして、また会いたいね、という女同士のセリフをお互いに述べて通話を切ったのだった。
気がつけば信号を渡ったところで歩みが止まってしまっていた。前を見た時、上空に一筋の雲が目の端に入る。
飛行機雲だ。
顔を上にあげて、美砂は真っ直ぐに描かれる白い線に魅入った。
―――あの事件のことはどこまでニュースになってるんだろうか? 伸びてゆく飛行機雲を見ながらぼんやりと考える。
自分にとってそれを確かめるということは、辛いことになる。それは重々承知しているつもりだった。
――見るなよ、と言った湯島の顔が一瞬脳裏をよぎる。
だけど、興味が湧いてくる。
少し知っておいた方が、いいのかもしれない。
美砂はそのままスマホの画面を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!