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美陽ちゃんを見ていると、十年も前の事を思い出す。
私も十年前、このショッピングセンターで迷子になった事があった。正確には迷子にさせられたことがある、だけれど。
あの日、私を毛嫌いしている五つ上の姉が珍しく一緒に買い物に行こうと誘ってくれた。嫌われているという自覚があったからこそ当時の私は、浮かれまくっていた様に思う。
結果、バカみたいに広いこの場所で置き去りにされ。そんな事にも気付かず二時間ほど待った私は、そこでようやく置いて行かれたのだと。最初からこうするつもりだったのだと理解した。お金も持っていない。帰り方も分からない。目の前が真っ暗になって、怖くて不安で押し潰されそうだった。
そんな地獄の底にいた私に見知らぬ少年が声を掛けてくれた。大丈夫だと輝く笑顔を見せて励ましてくれた。
実は私と同じ迷子だったその少年とインフォメーションに行き、有り難い事に彼を迎えに来た家族に助けられて無事に家に帰ることが出来たのだ。
その少年がいなければどうなっていた事か。考えるだけでも恐ろしい。
「ひかりおねえちゃん、どこかいたいの?」
心配そうに顔を覗き込まれて我に返る。どうやら要らぬ感傷に浸ってしまっていたらしい。
「大丈夫だよ。私もここで迷子になった事あったなぁって思い出してたの」
「ひかりおねえちゃんも?みよといっしょだね!」
無邪気な笑顔に胸が痛む。
……多分。と言うか、間違いなく。この子と私では同じ迷子でも全く違うだろう。
美陽ちゃんが嬉しそうに話してくれたゆうにぃと言う人が、私の姉みたいな事をするはずがない。こんな、どんな人間がいるか分からない場所に家族を置き去りにするはずなんかないのだから。
「もしゆうにぃが来なかったらどうする?」
心の奥から滲みだした仄暗い感情がそんな不謹慎な言葉を紡がせた。
「……あっ。ごめん何でもない、」
私はバカだ。こんな事を言うなんてどうかしている。
慌てて訂正しようとした私を遮って、美陽ちゃんは言った。
「ゆうにぃはくるよ!ぜぇったい!」
私には、眩しすぎる笑顔でそう言い切ったのだ。
その後酷い言葉を投げかけてしまって気まずい私とは裏腹に、美陽ちゃんは気にした様子もなく自分の事や家族の事を話してくれた。有り難いと思う反面、幸せそうな家族の話に嫉妬してしまう浅ましい自分がいる。
自己嫌悪に苛まれて自然と視線が下を向いた。
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