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「美陽!!」
「みよっ」
多くの人がいる騒がしいこの場所でも、美陽ちゃんを呼ぶ切羽詰まった声は耳に届いた。
「ゆうにぃ!みや!」
ぱっと声のした方を向いた美陽ちゃんが嬉しそうに声の主の元へと駆け寄る。
ほっとした顔で美陽ちゃんを抱き上げたゆうにぃと、彼の足元で安堵から泣いてしまっている美夜君らしき子。アナウンスが流れてから少し経っていたから心配したが、無事に会えて良かった。
「美陽、一人にしてごめんな。怖かっただろ」
「みよこわくなかったよ!ひかりおねえちゃんがいっしょだったもん!」
唐突に出てきた自分の名前と三人から一斉に向けたられた視線に肩が跳ねる。
「あ、高嶺さん……?高嶺さんが美陽と一緒にいてくれたのか。まじで助かった。ありがとう」
隣のクラスの立花君で合ってるかな、とか。無事に会えて良かった、とか。聞きたい事も言いたい事もあったのに。
その笑顔があの時。地獄から救ってくれた少年に似ている様な気がして、息を呑む。
私の勘違いかもしれない。十年も経っていれば記憶だって曖昧になってくる。だけど、確か。その少年の名前も夕、じゃなかったか。
脳が勝手にあの少年と立花君を結び付けようとし始めて、慌てて首を振る。
いくら何でも初恋を拗らせすぎだ。
「…………高嶺さん?」
黙りこくった私を不思議そうに見つめる立花君が、もうあの少年にしか見えなくなってきて。
「……何でもないです。では私はこれで失礼しますね。美陽ちゃんばいばい」
軽く手を振って逃げる様に立ち去る。
後ろから私を呼ぶ美陽ちゃんの声が聞こえるがそのまま足を進めた。
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