episode1. 前田りょう

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 窓から差し込む橙色の光が廊下一面をじんわりと照らす。  1歩また1歩と脚を動かした瞬間、わたしの視界に入り込んできた120cmの硝子箱。  職員室前に設置された大型の水槽の中には悠々と遊泳する海水魚。水泡が光に反射して宝石のようにキラリキラリと輝きを放っていた。  優雅に泳ぐ魚を目で追う。  こんな小さな箱の中に閉じ込められているのに意気揚々と舞い踊る小さくも大きい生命に手を伸ばそうとした、刹那。水槽越しに映る硝子玉のような双眼と目が合う。  魚などわたしの眼中には疾うに無く、硝子玉に惹かれるようにして反対側の水槽へと足早に進む。
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