1.失恋

1/3
前へ
/113ページ
次へ

1.失恋

高校に入学してから半年。十月になったばかりの、まだ蒸し暑さが残る秋。つい最近まで、新緑の葉っぱがついていた記憶も、あっという間に上書きされてすっかりと様変わりする。 そして、茶色い葉っぱになってくしゃりと地面に落ちる。鼻から空気を吸うと、なんとなく秋の匂いがした。 そんな秋晴れの放課後、入学式で一目惚れをした相手に、ついにやっと告白をしようと決意をした。 緊張する足取りで彼がいるグラウンドへ向かった。私の好きな人は、サッカー部に所属していて毎日放課後は部活に励んでいる。その成果もあって、一年生だというのに、すでにレギュラーを獲得している。 誰よりも一番最初に来て、誰よりも遅くまで練習をして。その姿を何度か遠くから見ていた。どこにいても彼だと分かるほどに私は、すごく好きになっていた。 グラウンドの端にたどり着く。すると、ちょうど私がいる水道付近にボールが飛んで来る。 「わ、やばいっ」 焦った私は、水道裏に逃げると身を縮こませてしゃがみ込む。 そのあとしばらくして足音が近づいて来るのが分かり、鼓動は加速する。 「ったく、あいつどこに蹴ってるんだよー」 ボールをとりに来た人は、やっぱり私の好きな人の声。小さく歓喜をすると同時に、見つからないかとヒヤヒヤしながら息を殺した。 人気者の彼の周りには、日中たくさんの人で溢れかえっている。そのせいで声をかけるタイミングなんかなくて。 けれど、今彼の周りには誰もいない。部活中だから、グラウンドの方にはたくさん生徒がいるけれど。 だからこそ、今しかないと思った。今度こそ、天が、神様が味方してくれていると思ったんだ。勝手にそんなことを思って、背中を押された気になる。 すーはーと呼吸を整えて、立ち上がろうと思った。 「松田くん!」 ふいに、女の子の声がする。反射的にまたしゃがみ込む。代わりに見つからないかという不安が襲い、口を両手で覆って息の音すら聞こえないようにする。それでも鼓動の音は、身体をすり抜けて耳まで聞こえてくる。 でも、こんなときに女の子の声がするなんて誰だろう。私と同じで告白しに来た人なのかな。気になった私は、息を殺しながら水道裏からそうっと覗く。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加