その臭いは古い記憶を呼び起こす

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「…気づいた?」  僕は腰を抜かしてその場にへたり込む。彼女のリコーダーをマスクが拾い上げる。 「すり替えてたの、私のと。ちょっと計画狂っちゃったけど」 「なんで女子高生が煙草なんて吸ってるんだよ」 「いいじゃんべつに、今時フツーだって。刺激刺激」 「彼女もこのこと知ってるのか?」 「いや、あの子は何も知らないよ。だけど、彼氏がまだリコーダーを舐めてるって知ったらあの子失望するんじゃないかな?」 スマホで撮った写真を見せてくるマスク。 「僕に何をしろと?」 「あの子と付き合ったまま、絶対にばれないように私と付き合ってよ」 「…わけが分からない」 「私、こう見えて友達想いだから。彼氏奪うようなマネはしないって」 「狂ってるよ…」 「言ったでしょ、あんたも私も同類。刺激を求めてるんだって」 「断ったら?」 「断らないよあんたは。ずっと見てたからわかるもん。それに…」  再びマスクは僕にキスをする。 「素直になりなよ、もうこれナシじゃ生きていけないでしょ?」  マスクは僕の心を読むように、何度も何度も唇を重ねる。抵抗なんてできるはずがなかった。金縛りにあったように全身がいうことを聞かない。心ではだめだと思っていても、それ以外の僕のすべてがマスクとのキスを望んでいた。いや、心さえも強がっているだけで本当は楽になりたいんじゃないのだろうか。  マスクの吐息に頭がくらくらする。下半身は正直だ。射精したばかりだというのにもう元気になっている。それに、マスクの言う「刺激」に僕の心は惹かれていた。  彼女とのレモン味のキスも、初めてのセックスも、一緒に過ごした時間も、日々も、すべてマスクのキスで上書きされてしまう。もうお僕に抗う意思は残されていなかった。 「よろしくおねがいします…」  僕は今日から、彼女の虜になった。
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