その臭いは古い記憶を呼び起こす

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好きな子ができた。僕のとった行動はリコーダーを舐めることだった。 彼女との接点なんてまるでないしまともに話したこともない。彼女はクラスでも人気者、方や僕は教室の隅で誰とも話さず一人で寝たふりをするような男子生徒、話したくても、話す理由もなければきっかけも勇気もない。 いけないことだとわかっている。けれど、思春期の男子には己の欲を抑えられるほどの理性は備わっていないし、普段から抑圧された生活からの反動から、楽しんでいる自分がいた。 キスの味はレモン味だとかネットで見たことある。本当かどうかは知らない。 じゃあ間接キスはどんな味なのか。 僕の知る限り、レモンではないのは確かだし、ほかの果物でもない。でも、どこか懐かしい匂いと味だった。 嫌いじゃなかった。考えれば考えるほど気になってしまい、僕は再びリコーダーを舐めた。 人目を忍んで何度も口に入れた。 音楽の授業の前日になると、こっそり水道で洗って乾くのを待つ。洗うと少し匂いが落ちるので、はやく授業が終わらないかと逸る気持ちを抑えるので精いっぱいだった。 次第にその臭いの虜になっていく自分に気づいた時にはもう遅かった。 「なにやってるの…?」  忘れ物を取りに来た好きな子が、彼女の席でリコーダーを舐める僕を見て言った。震える体、落ちたカバン、彼女の眼には涙が溜まっている。  見られた僕は何の抵抗もできず、ただ茫然とその場に立ち尽くした。終わりを悟ったのだ。  彼女はゆっくりと歩み寄ってくる。僕はただじっと待った。  僕の目の前で立ち止まり… 「私も君のこと好きだった…だから、そんなに嫌じゃない…かも?もちろん、びっくりはしたけど、嬉しかったっていうか…」 予想外の言葉に僕は驚きを隠せなかった。 僕は彼女と付き合うことになった
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