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第6話「可愛い恋人」
髪を乾かし終わると、いつもはワックスで固められている2人の髪がサラリと下に垂れた。
色違いの歯ブラシで歯磨きをし終えると、夏からずっと作るようにしている麦茶のピッチャーを冷蔵庫から出してコップ一杯ずつ飲み、いい加減、パンツ1枚でウロチョロしているのが落ち着かなくなった鷹夜は芽依の家に置いている自分のTシャツをバサッと着る。
表にドン、とゆるいクマの絵が入ったTシャツだ。
「芽依、明日さあ、ちょっと出たとこの店にハンバーグ食べに行かない?」
買い替えた事で、芽依の家のベッドはダブルサイズからクイーンサイズになった。
おかげで寝室の軽い音を立てて開く引き戸を開けるとすぐ目の前にベッドの端がある。
ベッドの向こうに見えるクローゼットの折り戸を開けるスペースを確保した結果、この戸までベッドがギリギリいっぱいの状態になってしまったのだ。
「ハンバーガーじゃなくていいの?」
鷹夜は和食とハンバーガーが好物だ。
芽依が寝室の引き戸をカラカラと開けてベッドに腰掛け、反対側のベッドの端にはTシャツを着た鷹夜が座り、ごろん、とシーツの上に寝転がる。
「うん、夕飯だし。あ、個室あるとこだから」
芽依を見上げつつ、鷹夜はこちらに向けられた彼の窪んだ背筋を見つめる。
一応は2人で出掛ける先の店は個室があるところを選択するようにしている鷹夜の気遣いも久々のデートの誘いも嬉しく、芽依はバッと寝転がっている彼へと振り向いた。
「行く!行きたい!いいね、ハンバーグ!俺たちじゃ作れないし」
「ふはっ、確かに作れないわ」
鷹夜が柔らかく笑うと、芽依は彼を愛しそうに眺めた。
「じゃあ明日の夜はデートだね。久々」
「うん」
こういうとき、鷹夜は素直に「うん」と返事をくれるのも、芽依は気に入っている。
鷹夜が下手に素直でない男でもなく、自分と芽依が恋愛としてのお付き合いをしているのだと自覚してくれているのが分かるようで安心するのだ。
「じゃ、明日のデートに向けて、エッチしませんか」
「ん?、んっ」
一瞬、携帯電話に気を奪われていた鷹夜の唇が上から覆い被さるように塞がれる。
実際、芽依が頭の方向を逆にして、真上から寝転ぶ彼に口付けていた。
「向けてって、何だそれ。準備なの?」
「ラブラブ度MAXに上げといた方が楽しいじゃん」
顔の横に置かれた大きな手に体重がかかると、ギッと低くベッドが鳴く。
何度かちゅっちゅっと角度を変えながらキスを落とされて、鷹夜がくすぐったそうに笑う。
芽依はこんな風に穏やかな恋人との時間が好きだった。
いつぞや自分を裏切り、散々に傷付けて姿を消した週刊誌の女のときには味わう事ができなかったものだからだ。
あのときは真剣ながらも本当に「男女」と言うお付き合いで、何故自分があそこまで彼女と結婚したかったのかが今では理解できない。
とにかく落ちぶれていた自分と言う存在が根底にいたせいか、人肌を求め過ぎて、もう誰にも捨てられないようにと頑張り過ぎていた気がする。
何よりも、1番奥底に消え切らない「佐渡ジェン」が真っ黒な毒となって身体と心を蝕んでいたのだ。
(鷹夜くん、、鷹夜くん、)
やっとのことで、芽依は鷹夜と言う最高の相手と出会ったと思っている。
完全に理解し合う訳でもなく、お互いの違いを見ながらゆっくりと形を認め合って、ハマり合えないときは互いに少しだけ譲り合って形を変えて合わせていく。
鷹夜とはそう言う愛を芽依に向けてくれる唯一無二の存在になっていた。
「今はMAXじゃないわけか」
「そうとは言ってないけどさ。んふふ、鷹夜くんお口ちっさいね」
「ん、、え、今?」
またちゅっと音を立ててキスをして、鷹夜のふにゃふにゃした血色の良い唇を指先でつついて遊ぶ。
確かに、身長差もある分、芽依と鷹夜は少しではあるが頭の大きさも違い、そして顔のパーツが派手な芽依は口が大きい。
それと比べると、鷹夜の唇はちょこんとしているものだ。
「今思ったんだもん」
「んー、あっそ」
「お口小さいのにほっぺパンパンになるまで頬張って食べるよね」
「あれ癖なんだよね、、母親にはやめろって言われてたなあ、ずっと」
「ふふ、可愛い」
そしてもう何度目かのキスをしようとした瞬間、流石に鷹夜に拒絶され、芽依の唇に鷹夜の手のひらがムギュッと押し当てられしまった。
「やりづらい」
確かに、頭の向きが逆と言うのは中々に唇を重ねづらい。
「んー、こっち来て」
芽依は鷹夜の文句に嬉しそうに微笑み、身体を起こして彼が枕に頭を乗せるまで待つ。
この枕もベッドの買い替えと一緒に新しく買ったものだ。
毛布も掛け布団も全部買い替えたので、全部が新しく、2人用になった。
「鷹夜くん勃ってない?」
「疲れてるからなあ」
「強がんなよ〜。チューしたからでしょ?」
ベッドに正しく寝そべった鷹夜の隣に寄り添って寝転がり、芽依は再び鷹夜の唇を奪う。
お互い、風呂上がりのふわふわと柔らかいシャンプーの香りを感じていた。
「ンッ」
「芽依も勃ってんじゃん」
「ちょ、急にはやめてよ。ビビった」
「ビビったと言うか感じたんじゃないの」
そう言いながら、鷹夜は芽依の脚の間に入れた手で撫でるように優しく彼のそこに触れる。
ボクサーパンツ越しの熱く硬くなり始めたそれを指先で擦ると、ギュッと芽依の腹筋に力が入るのが見えた。
「そりゃ感じるでしょ。好きな人にそんなとこ触られてんだから」
「んん、、芽依本当に可愛いね」
「もっと言って」
ちゅ、ちゅ、と唇が重なる。
芽依は鷹夜に覆い被さりながら、彼が着ているクマの絵が入ったTシャツを肌を掠めるようにして捲っていく。
そのTシャツの動きがじれったくて、鷹夜は身を捩って目を瞑り、芽依の舌を吸った。
「っん、、芽依」
「んん?」
唇を離し、鷹夜の首筋に吸い付いていた芽依は名前を呼ばれると顔を上げ、とろんととろけた表情で鷹夜を見下ろす。
久しぶりに鷹夜の肌に触れられるこの瞬間がやたらと幸せで切なくも感じており、名前を呼ばれるのさえ嬉しそうだ。
「あのさ、今日さ、」
「うん」
「尻、ぃ、挿れてみっか?」
「え」
「その、、芽依の、これ」
鷹夜の乳首を触ろうと腹を撫でて肋骨に触れた手が止まる。
覆い被さる芽依の脚の間のそこを撫で、鷹夜は恥ずかしそうにそう言った。
「え、、う、うそ、え、いいの?」
コクン、と彼が頷くのを見下ろして、芽依は震えた唇で情けないような声を漏らした。
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