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声を掛けられた奴は戸惑いながらも嬉しそうに部屋に入って来た。
入って来た瞬間、思わず俺は目を見張った。
弟は一見、少女のように可愛らしい綺麗な顔立ちをしていた。
珍しげにピアノを見るので、気まぐれのままアレンジして荒々しく弾いてみせると奴はじっと見入ってから嬉しそうに手を叩いた。
「すごい! 音が跳ねてていつもより楽しい音だ!」
目をキラキラさせ、そう口にして笑う奴の言葉に俺は衝撃を受けた。
周りの大人は母を除きそんな反応はしない。もちろんコンクールで毎回、顔を合わす周りの子ども達もだ。
無邪気な称賛を前にして俺は戸惑いながら答えた。
「今のは別にすごくない……いつもってお前、俺のピアノ聴いてたのか?」
「ああ。毎日弾いてるだろ? いつもは丁寧で綺麗な音だ」
「……使用人の子に分かるわけないだろ」
「分かるよ。毎日聴いてる」
俺のピアノの荒い音を耳にして父が部屋に入って来ると父はその場にいた奴を叱りつけ部屋を出て行かせた。
もちろん荒い演奏をした俺も父から叱られたがその時、初めて弟の存在を父から聞かされた。
奴は使用人の子だが、父の子でもあり腹違いの俺の弟と言うこと。
屋敷の離れに母親と住み込み、同じ敷地内で暮らしていると言うことも初めて知った。
俺は母親の違う弟に嫌悪感を覚えて弟を偽物と呼んだ。
偽物の弟……。
奴は繊細で綺麗な見た目に反して中々、神経が図太く俺の嫌味が通じなかった。
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