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この屋敷はまるで俺には牢屋みたいだった。
広いくせに閉塞感を感じて息苦しくなる。
俺はこの屋敷で音楽家の父とピアニストの母の元、音楽の英才教育を受けて育った。
小さい頃から毎日、ピアノに縛られて父の期待に応えるのに必死だった。
おかげでコンクールデビューしてから今まで入賞を掻っ攫い、毎回コンクールで顔を合わす子には疎まれるほどになっていた。
そんな俺とは違い、弟はピアノに触れることなどなかった。正確に言えば触れることを父から許されていなかった。
俺は弟などと奴を認めていなかった。弟ではなく偽物……。
弟は父の愛人の子で母親はこの屋敷の使用人だったからだ。
俺の母親と同じ時期に弟の母親は妊娠し、それを産ませた父は随分と酔狂な人間だった。
つまりは腹違いの弟で父の隠し子。
弟とは言うが俺と同じ小学五年生で生まれた日にちも一日しか変わらない。
父が同じでも弟は使用人の子に変わりなく、隠し子の立場からピアノに触れることを父から許されていなかった。
それに反して俺はピアノに縛られ自由などなかった。父の期待を背負い、子供らしい遊びも知らずにピアノを弾く毎日。
俺の目には弟が自由に見えて心底、羨ましかった。
初めて弟と対面した日も、俺はピアノの前にいた。
使用人の子がいつも屋敷の庭をうろうろしているのは知っていたが一年前の俺はまだ事実を知らずにいた。
ドアの隙間から垣間見ていた奴の視線に気付いて俺はその日、初めて声を掛けた。
「ピアノ聴きたいなら入って来れば?」
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