レッスン室

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 技術が足りず母が弾いたエチュードには及ばなかったが転調部分は弾いていて楽しかった。  あの日の母のピアノを再現したくて、聴いた時の感動をスイにも伝えたくて、俺は曲に入り込んで指や腕を夢中で動かしていた。  弾き終わると今の自分に満足出来ず悔しかったがいつか母のように完璧な物にしたいと言う向上心が湧いていた。  拍手にハッとするとスイが呆然として手を叩いていた。 「……凄い」  素人が聴けばそれなりに俺のピアノでも響いたらしく、スイはパッと俺に笑顔を向けた。 「アオイはやっぱり凄い! 聴いててドキドキした。キラキラした光が体に入って広がって、踊ってるみたいだった! 全然違う。近くで弾いてるところを見てアオイの凄さがよく分かった!」 「……凄くない。まだ技術も表現も足りてない」  妙な褒め方をされ照れ隠しに素っ気なく答えるとスイは目をキラキラさせて食い気味に俺の手を取って尋ねた。 「それでも凄い! 魔法みたいだ。その手、どうなってるんだ?」 「別に普通だよ。そりゃ毎日、馬鹿みたいに練習してるからだろ……」  手を重ねて不思議そうにしているスイに俺は気付いて思わず手を引いた。  スイの指の方が俺より少しだけ長く、ピアノを弾くにはスイの方が有利だと思った。  ピアノなど触ったことのないスイに対して嫉妬のような感情に戸惑うと俺はスイを少し睨んだ。
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