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母は笑うと楽譜をコピーして挟んだクリアファイルに目をとめた。
「これは何かしら?」
「俺の嘘の本選用の楽譜だよ。アオイが書き込み用にコピーしてくれたんだ。まだ全然、楽譜の読み方分かんないけど学校で習う簡単なドレミの音符はわかる」
「母さん、スイ凄いよ? スイ、熱情の第一楽章を一気に弾いたんだ」
「あら、本当? スイちゃん凄いじゃない!」
「でもアオイみたいな音で弾けなかった。ドビュッシーの曲はアオイの弾き方を真似したら音が凄く良くなったんだ。やっぱりアオイは凄い!」
「真似出来るお前が凄いんだろ?」
「俺は真似しか出来ない。綺麗な音で弾くアオイが凄いんだ。奥様、その後アオイが弾いた本選の曲も凄くよかったんだよ? 最後のプロコの曲は迫力あって光がキラキラ飛び散ってた」
「まぁ……キラキラ?」
「スイ! その話、母さんに話しても分かんないだろ?」
俺とスイは朝のレッスン室でのことを張り合うように母に話した。
母は俺とスイの話を興味深く笑顔で聞いてくれた。
一通り俺達の話を聞いた母はスイの漢字ノートを指差した。
「スイちゃん早く宿題終わらせなさい? 楽譜の見方を教えて欲しいんでしょ? 私、先にレッスン室で待ってるわね」
「うん! 早く終わらす」
「雑……汚い字だな」
「いいんだよ! 読めるから」
俺は段々と雑になっていくスイの漢字を見ながら筆箱に鉛筆と消しゴムをしまった。
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