君とママの話をしよう

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「パパ、このおばあちゃんだよ。こないだハンカチ貸してくれたの」  わたしは絶句した。馬鹿な、ありえない。凛子が指差している人は今日の主役である倉橋利江であり、彼女はあの日の夕方に死んだ筈なのに。すると喪主である妹の和江さんが凛子の言葉を聞いたのだろう、絶句した顔で話しかけて来た。凛子はさっ、と足下に隠れる。わたしは宥めながら和江さんと話をした。 「凛子ちゃんは雅子ちゃんにそっくりね。……意地を張らずに会いに行けば良かったのに『自分にそんな資格はないから』って……姉は入院中3に謝ってばかりでした……姉に代わって謝罪します。本当にごめんなさい……そして今日は来てくださってありがとうございます……」  深く頭を下げる和江さんを見てわたしは、わたしの方から歩み寄れば良かったと心底後悔した。雅子はもう実家のことは信じられないと断言したからそれを信じたが、もし罵倒されると分かっていても凛子を見たら態度を軟化させたかもしれないと思ったらついに分かり合えなかったわたしたちの身の上が悲しかった。ふと凛子を見ると彼女は遺影に言葉をかけている。「ありがとう」なんてまさしく対話そのものじゃないか。ますます生きて会えなかったことが悔やまれた。 「そうだわ、どうかこれを受け取ってちょうだい。雅子ちゃんのアルバムよ。荷物になっちゃうけどエイリークさんが持ってくれた方が姉も雅子ちゃんも喜ぶわ」と和江さんは持っていた紙袋を渡してくれた。  話を終え、凛子の隣に立つと自然と利江さんの遺影と目が合った。目を閉じて語りかける。貴女が最期まで気にかけてくれた娘と2人で頑張って幸せに生きて行きます。どうか、見守っていてください。 「パパ」と凛子が呼んだ。「おばあちゃんと何かお話ししたの?」 「これからも父娘で仲良く暮らしていくから見守って下さいってお願いしたんだ」 「これからはママもいるし、大丈夫」と凛子は胸を張った。わたしはその姿が誇らしく、その言葉に驚きながらも嬉しかった。  
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