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本屋を出ていつもの喫茶店に入る。私はアールグレイを、ペリエはクリームソーダを注文した。
飲み物が運ばれてきて、たわいもない話をする。
「この前の祭儀の時、いつになくうまく牛屠れてさ、血抜きとかすごい楽だったんだよね」
「あー、たしかに肉おいしかった」
「どうやって食べたの?」
「庭にかまどシステム組んで炭火焼き」
「私と同じことやってる」
そんな話をしていると、ゼロが不思議そうな声でこう言った。
「そういえば、ペリエはドラコに神様奉れって言わないよね」
すると、ペリエは頬に手を当てて溜息をつく。
「だってぇ、ドラコの事情知っちゃったら奉れなんて言えないじゃない。
いいの。その分私が余分に奉っとくから」
その言葉を聞いて、目頭が熱くなる。今まで散々神様を奉らないことを戒められてきたからだ。
思わず口から零れる。
「神様なんてきらいだ」
すると、ペリエが慌てて周囲を見回して小声で私に言う。
「ちょっとだめだよそんなこと言っちゃ。
誰が聞いてるかわかんないんだから」
その言葉に触発されて、今まで押し込めていたものが、次々と溢れて口を突いて出てくる。
「だって、ギフトを使わずに生きてれば弟を返してくれるって思ったのに。でも、なにがギフトなのかわかんないんだもん。
きっと私、気づかないうちにギフトを使ってるんだ。
今の恵まれた生活の代償に、弟を奪われたんだ」
すると突然、湿ったものが頬に押しつけられた。
「落ち着きな。熱くなってる」
なにかと思ったら、ゼロが両手で私に冷えた濡れタオルを当てている。
熱くなっているのはわかっている。けれど、もう思い出せない弟のことを思うと冷静ではいられないのだ。
「神様だって、連れてったからには悪いようにはしてないよ」
ゼロのその言葉は、私が何度も自分に言い聞かせているものだ。
ペリエも困ったような声でこう言う。
「ドラコがずっとつらいって思ってるのは知ってるけど、ゼロが言うとおり、悪いようにはされてないって思って、なんとか消化しないとやってけないよ?」
それから、大きな手で私の頭を撫でてこう続ける。
「この世界は、物語の中とは違うんだから」
それはわかってる。この世界に溢れているたくさんの物語。その中には、神様を倒したり凌駕したりといった人間が出てくるものも少なくない。けれどもそういった物語は神様を信奉する一般的な人達からは眉を顰められているし、書いている人達だって大半は神様を信奉し、奉っているのだ。
この世界は物語とは違う。人間は絶対に神様を越えることも倒すこともできない。
きっとほとんどの人が知らないであろうあの冷徹な声をした神様に、誰も逆らうことができないのだ。
そう、かつて弟を返せと泣き叫んで見せた私だって。
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