人々を愛した代償

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膠着状態にあったトロイア戦争は、9年が過ぎて大きな転機を迎えた。 イリオスの英雄ヘクトルが、ギリシャ連合軍の英雄アキレウスにより討たれ、そのアキレウスも弓矢により戦死、連合軍側の名軍師オデュッセウスの計、【トロイアの木馬】による夜襲が勝敗を分け、イリオスは敗北した。 一方東へ向かっていたプロメテウス達は南下し、エジプト方面へと向かった。 エジプト付近でまた静かな生活をして過ごしていた。 後にプロメテウスの予言通り、ギリシャ神話の神々は人々を諦め、捨て、天界へと帰ってしまった。 それを千里眼で見ていたプロメテウスに、少しの脱力感がよぎった。 「とうとうこの時が来たか……」 地上は神々から見捨てられたのだ。 世界的に次々起こる戦、耐え難い憎しみや裏切り、数え切れない人々の業が渦巻く星に、ゼウス等は見きりをつけた。 プロメテウスは天を仰いだ。 「ゼウス様も行かれた……」 人々は迷える子羊だろう。 戦争の先に希望の光はあるだろうか? プロメテウスが導くのか? いや、ゼウスに取って変わるような真似は、もう2度とするつもりはなかった。 ただ見守っていよう。 ただ此処に残り、見届けよう。 1人の母親のように待っていよう。 空の青さが目に沁みた。 ソロ達の声が遠くからした。 「父上ーっ!今日は大漁ですよー!」
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