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「あんなもの二度と作れない…作りたいとも思わない…私が家で作るものはレシピを見て作るような凝ったものはひとつもないわ。なんでもかんでも‘目分量’よ、ふふっ」
新しいグラスを持ち愛実の隣に座ると彼女がワインを注いでくれる。
「俺は断然愛実派だな。料理が趣味で一日中キッチンにいるのが好きな人はどんなに凝ったものを作ってもいいが、日常的な毎日のルーティンのひとつの食事は今日の食事でも十分過ぎるくらいだと思う。ほんと旨かったしな」
「悠衣のパスタ、今度食べてみたいな」
「喜んで作る。来週月曜からうちにいれば?」
「どうしようかな…それはちょっと待ってもらっていい?」
彼女は真っ直ぐに俺を見て聞いてきた。そしてそのまま俺の返事を待たず言葉を発した。
「一緒に住むこと…きちんと考えたいのに、結論を出すのではない形で今悠衣の部屋に行ってしまうと自分で決めたのではなくて…西林に行かされた感じで…それは嫌なの。一緒に暮らすなら自分の意思で自分の足で悠衣のところに行きたいと思う」
ああ、これも俺の好きな愛実だ。
「愛実…抱きしめたい、おいで」
彼女の方に向いて座り腕を広げて見せると、愛実は椅子から下り素直にトンと体を預けてきた。両腕で抱きしめ俺の気持ちもしっかりと伝える。
「めちゃくちゃ嬉しい…愛実がひとつ一つ俺とのことを真剣に考えてくれていること。少しずつ話をしたり、こうして触れられること…全てが嬉しいし愛しい。愛実、もしうまく進むことが出来なくて後退することがあってもいいからな。俺は愛実の全てを受け止めると約束する」
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