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「こちらこそ…ここは構わないのかな?誰か来る?」
落ち着きのある声がずいぶん上の方から聞こえる感覚に斜め後ろを振り返ると、明るいネイビーのリネンジャケットを着こなしてこちらを見下ろす瞳と視線がぶつかった。
「いえ」
背の高い人だなぁと思いながら短く答えグラスに向き直る。男性も短く、失礼と言いながらチェアに腰掛け
「What are you drinking,Brent?」
「Talisker」
ひとつ向こうの方の顔を見ていないけど彼らは日本語と英語で話するのね。
「タリスカー、トワイスアップで」
落ち着きある声が先ほどより近くに聞こえる。不快ではない、むしろ心身を包み込まれそうな心地好い包容力を感じる声。しかし今夜は何も聞こえない方がいい。グラスを手に取ると、右隣に座った彼の質のよいリネンジャケットと高級腕時計が…誰もが知るブランドではなく知る人ぞ知る高級ブランド…元夫も使っていたブランドの腕時計が視界の隅に入りグラスを一気に傾けた。
隣の彼の前にマスターがグラスを置いたタイミングでマスターに目をやると
「同じもので?」
「ごめんなさい、今夜はこれで失礼します。今日も美味しくいただきました」
「いつもありがとうございます。体調が悪いのではない?タクシーは必要ありませんか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
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