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お二人はよく食べ、よく飲み、よく話し、よく笑う方々だ。
「あっ、それそれ…その顔だ。いま愛実ちゃん頬っぺ落ちたね」
私は話しながらも美味しいものを食べる時はどうもそちらに集中するらしい。向かいに座っておられるご両親が楽しそうにワイングラスを傾ける。
「愛実、赤身の方が好きだな。それがシャトーブリアン、これがフィレミニヨン」
シャトーブリアンをゆっくり飲み込んだ私に、悠衣がフォークに刺した肉を差し出す。ここでアーンはないでしょ…だがお母様はアーンとジェスチャーをし早く食べろと促し、お父様が
「愛実ちゃん、ワインか水を一口飲んでからアーンしなさい」
とおっしゃる。アーンは決定…しかも利き酒ならぬ利き肉のような食べ方だ。お二人ともワイングラスを持ったまま…私は肴?言われるがまま水を飲み、そしてアーンとお肉を頂く。あっ…違うね…どちらも美味しいけど肉質が違うし…しまった…完全に今お肉の事しか考えてなかった。
「気に入った?」
「うん、気に入った以上に気に入った」
「ふっ…どっちが好きだ?」
「うーん、どちらも食べたことないレベルで美味しい」
「けど、もう一口食べるとすれば?」
「「フィレミニヨン」」
悠衣と私の声が重なり驚いたが、悠衣は当たり前のようにフィレミニヨンの皿を私の前に持ってくる。
「悠衣、今のは素晴らしいわ。私まだそこまで愛実ちゃんの表情の違いが読めないもの。なかなか、やるわね」
お母様が悠衣にワインを注ぎながら言い、続けて自分のグラスにもおかわりをたっぷりと注ぐ。
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