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何となく皆について出たレストランの前で、悠衣の腕を軽く引く。
「ん?」
「ここのお会計って…」
「親父たちの部屋についてるだろ」
そうだよね。一足先にエレベーター前におられたご両親に
「ごちそうさまでした、とっても美味しく頂きました。ありがとうございます」
と頭を下げると、お父様がにこやかにおっしゃった。
「こちらこそ、ありがとう。今日は会えて嬉しいよ」
「愛実ちゃん、もう少し付き合ってね」
そう言ったお母様が私に腕を組んで来られた。そしてエレベーターは1階上がるだけで下り、素晴らしい夜景のバーへと進む。私は飲みなれたウィスキーフロートをお願いしてから、ゆっくりと窓の外を見る。
「いつもの生活空間からたった30分ほどで…なんだか異世界だね」
「そうだな…それを求めて人が集まる」
「クリニックとは真逆の意識だね」
「誰もが必要とする日常を支えるのがクリニックで克実であり愛実だろ?」
「…そうか…日常を支える」
「そうだ。子どもが体調良くないなんていうのは日常だろ?乳児から順に受ける予防接種の数々も誰もが通る日常。それを‘なかのこどもクリニック’のお前たちが支えてる」
「すごいね」
「ああ…すごいんだぞ、中埜兄妹」
「ふふっ…あっ…すみません」
夜景に見とれ、悠衣と普通に会話している間にドリンクが運ばれていた。そしてご両親は静かに私たちを見守っていて下さったようだ。
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