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先月と同じ店なので愛実の緊張も大したものではないだろう。滝沢社長と現れたリサさんは栗色の髪の小柄な女性だった。明るくよく笑いよく食べる人で、彼女はよく話をしているのに不思議なくらい聞き上手だった。
4人で話も食事も進むうち、滝沢社長と呼んでいたのを社長は止めてくれと言われた。
「滝沢さん、ひとつお聞きしても?」
「もちろん、答えられることなら」
「リサさんの話を聞いていると結婚願望があったわけでもないようですし滝沢さんもその点を良く理解しておられる。お二人とも多種多様性を受け入れられる方で…現在は結婚しておられる。結婚に至った理由をうかがっても?」
俺がそう聞くと滝沢さんとリサさんは顔を見合せ幸せそうに微笑み合う。
「結婚するつもりはありませんでした」
滝沢さんが俺に話してくれる。
「結婚しないままでも二人とも十分幸せで必要性も感じていなかったんです。でも私はリサにプロポーズをしました」
言葉を区切った彼に俺は頷き先を促す。
「イタリアの彼女の家族に会ったとき、自分もこの家族の一員になりたい…強くそう思いました。とても気持ちの良い人たち、心地好い空気感…これをリサのパートナーとしてではなく、彼らの家族…彼らの息子、孫として感じたい。包まれたい、包みたい…そう感じた時、その夜にはプロポーズしていました」
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