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「うん、克実も私も元気。クリニックも順調。…あのね…」
愛実は一瞬言葉を区切ったあと吐き出す呼吸と共に言葉を続けた。
「お父さんとお母さんに、会って欲しい人がいるの」
‘…’
そこからは小さくうんと答える程度で聞く一方だ。その‘うん’も段々と小さくなっていく。見かねた克実がスマホを愛実から抜き取り
「愛実に話させてやれよ」
と呆れたように言う。
「俺も知っている。それでいて賛成なんだ。会うだけ会ってからでいいだろ?」
「一度クリニックを見たいと言っていたんだから土曜日の午後にでもこっちへ来たら?」
こうして克実が半ば強引に約束を取り付けてくれた。
「土曜日診察後、俺がクリニックに残るよ。二人とも見てみたいと言っていたんだ。悠衣は早めの夕食をどこかで予約できるか?俺が連れて行くよ」
「わかった。会席にする」
「それがいいだろうな。ナイフとフォーク使いながらじゃ、あの二人は落ち着かないだろう。加勢するから俺の分も頼む」
「愛実…愛実?」
放心している彼女を二度呼ぶと、ゆっくり俺を見た。
「土曜日…聞こえてたか?」
コクンと頷いた愛実の髪を撫で
「紗綾たちと行った店にする」
そう言うが返事がない。
「何とおっしゃったんだ?」
「…また男の人と会うのか?から始まって…何度も懲りないんだねって。若いから恋人はできるだろうけど…何も結婚する必要ないだろうって」
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