悪魔ではなく

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「ねぇ、覚えてる?」  投げかけられる問いかけに、Xは首を傾げて言う。 「何をですか」 「あなたが、初めて来たときのこと」 「もちろん、覚えていますよ」  Xの低い声は、狭い部屋の中に柔らかく響いた。その声を聞いてほっとしたのだろう、布団の上に上体を起こしていた彼女は、硬かった表情を緩めて微笑みを浮かべた。 「あなたが助けてくれなかったら、わたし、どうなっていたことか」 「偶然ですよ。……本当に、偶然です」 「偶然かもしれないけど、わたしは運命だと思ったの。あなたに会う、運命」  運命などという言葉を、果たしてXは信じているだろうか。私はそうは思えなかった。けれど、Xは肯定も否定もせずに、彼女の声を聞いていた。  ……聞いて、いたのだ。
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