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カーテンを閉ざした窓の外からは激しい罵声が響いてくる。もちろん、Xも気付いていないはずはない。それでも、Xは彼女の手を硬く握りしめたまま、その場から動こうとはしなかった。
……彼女が、息を止めるその時まで、ずっと。
窓の外には街中でXの姿を見つけた住民たちが集まり、口々に悪魔を殺せと叫んでいた。その罵声を聞きながら、辺りに煙が立ち込め始めていることに気付く。家に火を放たれたのだと察する。
もちろん、気付いていないはずもないのだろうが、Xは動かない。もはや動くことも喋ることもない彼女の手を握りしめたまま、ぽつりと、呟いた。
「……悪魔なら、よっぽどよかったのに、なあ」
Xはただの人間だ。人をたくさん殺したことがある程度の、ただの、人間。
だから、彼女の死を覆すこともできなければ、この街に迫る滅びをどうすることも、できやしない。……きっと、そういうことなのだろう。
炎が視界の端にちらつき始める。Xはそれでも動かなかった。
私が引き上げを命じるまで、ずっと、ずっと、そうしていた。
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