悪魔ではなく

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 ――『異界』。  ここではないいずこか、此岸と彼岸、この世とあの世、もしくは、いくつも存在し得るといわれる平行世界。  そんな『異界』へのアプローチを、ごく限定的ながらも可能としたのが我々のプロジェクトだ。人間の意識をこの世界に近しい『異界』と接続し、その中に『潜航』する技術を手にした我々は、『異界』の探査を開始した。  もちろん『異界』では何が起こるかわからない。向こう側で理不尽な死を迎える可能性も零とは言えない。故に、接続者のサンプルとして秘密裏に選ばれたのが、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。  寝台に横たわる肉体を残し、Xの意識は『異界』に『潜航』する。Xの視覚は私の前のディスプレイに、聴覚は横に設置されたスピーカーに繋がっている。肉体と意識とを繋ぐ命綱を頼りにたった一人で『潜航』するXの感覚を受け取ることで、私たちは『異界』を知る。  今回、Xが降り立ったのは明るい森の中だった。広葉樹が日の光を透かしており、足元の草葉にまで木漏れ日が届いているのだろう、豊かな緑が広がっていた。Xの視界を通して見る限り、こちら側のものとそう大きく変わっているようには見えない、それ。  Xはすぐに探索を開始した。事前にXが生存できる環境であるかのチェックは行っているが、『異界』の詳細な様子は、Xが足で確かめるしかない。
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