悪魔ではなく

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「おい、悲鳴が聞こえたが、大丈夫か!」  どうやら松明の炎と、そこから立ち上る煙が獣を怯えさせたらしい、と想定はできるが、それ以上のことは判断がつかない。Xがぼんやりそちらを見ていると、男たちはXと少女を取り囲んで口々に言った。 「災難だったな。こんな街近くまで獣が来るのは珍しいんだが」 「この辺では見ない顔だが、あんたがこの子を助けてくれたのか」 「おい、お前さん、怪我してるじゃないか。手当てをした方がいい」  Xはぱちりと一つ瞬きして、それから首を横に振る。 「いえ、私は――」 「すぐ街に戻って手当てしましょう! 傷が悪化したら困るもの!」  Xの言葉は、少女が上げた声に遮られることになる。少女は今にも泣き出しそうな顔でXを見上げていて、Xは出しかけていた言葉を引っ込めざるを得なくなる。そして、代わりにわずかに首を傾げて言った。 「すみません。ありがとうございます」 「ありがとうを言うのはこっち。……助けてくれて、ありがとう」  そう言って、そっと、少女はXの手を握る。Xはきっと戸惑っていたに違いないが、少女の手の感触を確かめるようにその手を握り返す。その温もりを私が知ることはないけれど、きっと温かいのだろうなと何となく思った。
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