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彼らの言う「街」は確かにすぐそこにあった。森の中に存在する小さな街に招かれたXは、少女の家で手当てを受けることになった。少女の両親はXに何度も感謝の言葉を投げかけてきて、Xの方が恐縮して縮こまってしまうくらいであった。
獣の爪ですっかりぼろぼろになってしまったシャツを脱がされ、傷ついた肩を中心に包帯を巻かれて。Xはその間きょろきょろと辺りを眺めていた。やはり御伽話に出てくるような、小さくもかわいらしい家。暖炉には火が燃えていて部屋を暖めている。
「最近、何だか森が騒がしい気がするの」
Xの手当てをしながら、少女が言う。
「獣がこんな街近くまで来ることも珍しいし、悪いことが起きなければいいんだけど」
Xはそんな少女の言葉を聞きながら、自分の左手が変わらず動くことを確かめていた。痛みを感じていないということはないはずだが――意識体といえど、疑似的に肉体を形作っている以上は苦痛はそのまま感じるようにできている――、Xはしれっとしたものだ。
そんなXに興味を引かれたのか、少女はXの顔を覗き込んで大きな目をぱちぱちと瞬かせる。
「ねえ、あなたはどこから来たの? 森の外から?」
「そうですね。ここから遠い場所からです」
「そっか。ここ、外から来るひとなんてめったにいないんだ。何にもない街だもんね」
少女はXの包帯を巻き終えると、「それじゃあ、ちょっと待っててね」と言って隣の部屋へと消えていった。手持ち無沙汰になったXはぼうっと窓の外を見やる。窓の外では日が沈み始めていて、空がゆっくりと赤く染まってゆく。
その時、だった。
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